芸術と医学の接点 ~ピアニストが行っていることを脳神経内科医が考察してみた
July 16 th 15:50 - 16:50
"芸術と科学はそれぞれ取り扱う事柄が異なる独立したジャンルである。しかし、例えば楽器演奏は、楽譜を理解し分析する脳、楽器を演奏する運動器など、身体機能と無関係には実現しえないものであり、この点においてはスポーツ医学のように舞台芸術全般においても医学的なサポートが望まれる場合もあると考えられる。
舞踏家、声楽・器楽演奏家など舞台芸術家の多くは就学前の幼少期から訓練を開始し、プロフェッショナルとしての活動ができるまで少なくとも10年から20年の間、生活の大部分を時間とエネルギーを自身の音楽能力向上に費やす。さらに世に出た後も、絶えず研鑽を積み続けなくてはいけない。
このように生涯を通じて培った技術は、舞台芸術家にとって人生そのもの、アイデンティティそのものと言っても過言ではない。それゆえに、活動遂行の障害となる疾患を併発してしまうことは、単に生活手段の喪失だけでなく、自らの存在意義の喪失にもつながりかねない大問題となりうる。
一方で舞台芸術家が長期間かけて築き上げた能力は大変精緻なものであり、日常生活動作遂行に必要な能力とは一線を画す場合がある。その結果として、芸術家が何らかの不調を感じて医療機関を受診した際、日常動作に大きな影響がないという点から通常の診療基準からは疾患として受け止め難いという例も起こり得よう。軽微な運動器障害だけでなく、音楽家の手のジストニアに代表される動作特異的な疾患もそのような事態が起きやすく、演奏家が複数の医療機関をさまよい、結果として早期の診断と対処の機会が失われることにより病状を悪化させる恐れがある。
今回脳神経内科医とピアノ演奏家の両方の立場を持つ者として、ピアノ演奏に関わる作業を医学的に考察してみたいと考えている。演奏の裏側を垣間見ていただきながら、運動器障害とのかかわりの深い整形外科諸先生方に演奏芸術医学診療の一助にしていただければ幸いである。
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I don't have COI relationships whitch should be disclosed.