写真提供なし
平尾 利行 (船橋整形外科クリニック 理学診療部)
上田 祐輔 (船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター 肩関節・肘関節部門)
白土 英明 (船橋整形外科病院 人工関節センター)
【はじめに】大型の弦楽器であるチェロは、ヴァイオリンのように楽器を肩に担いで演奏する楽器とは異なり、チェロの底から伸びるエンドピンと呼ばれる棒状のパーツで接地し、奏者が楽器のネックを左肩前に構えて演奏する楽器である。本演題では、右頸部から上肢にかけての痛みを訴え当院に来院したチェリストに対し保存療法を1年間実施したことで得られた知見を報告する。
【症例提示】症例は60代男性、プロオーケストラに所属するチェリスト。2ヵ月前から誘因なく右頸部から右上腕の疼痛を発症。演奏中にも激痛が走る(Numerical Rating Scale: NRS 9/10)ようになり当院を受診。X線画像ではC5/6/7椎間板腔狭小化とストレートネックを認め、MRIではC5/6左側ヘルニア、C7/8右側ヘルニアを認めたが、上肢の感覚低下、筋力低下、腱反射低下は認めず、仕事を続けながら保存療法として薬物療法(トラムセット服用)と理学療法が処方された。理学療法では筋・筋膜への徒手治療と、ホームエクササイズとしてストレッチングと肩甲胸郭の運動療法を行った。保存療法開始1ヵ月後に疼痛は軽減したが、演奏しているうちに右上肢痛が生じる状態が続いた(NRS 4/10)。保存療法開始4ヵ月後からは弦を弾く端座位姿勢において体幹を良肢位に保持すると肩甲骨を動かしやすくなり右上腕三頭筋痛が消失することを発見し、コアエクササイズに重点を置いた運動療法を開始した。保存療法開始10ヵ月後に疼痛は消失。右頚部から右肘にかけての張り感が残存したため運動療法を継続したところ、保存療法開始12ヵ月で症状寛解に至った。
【まとめ】本症例ではチェロ演奏に必要な端座位姿勢においてコアを意識した姿勢を取らせることで肩甲骨を動かしやすくなり症状寛解へと導くことができた。演奏家の整形外科疾患に対するリハビリテーション治療成績の報告は少ないので、今後更なる症例報告を積み重ね、エビデンスを構築する必要があると考える。
I don't have COI relationships whitch should be disclosed.