写真提供なし
草木 妙子 (船橋整形外科クリニック 理学診療部)
関口 貴博 (船橋整形外科クリニック 理学診療部)
平尾 利行 (船橋整形外科クリニック 理学診療部)
國吉 一樹 (船橋整形外科病院, 流山中央病院 手外科・上肢外科センター)
白土 英明 (船橋整形外科病院 人工関節センター)
【はじめに】ピアノ演奏は繊細かつスピードのある手指運動が求められ、作業療法において手の巧緻動作を最大限に引き出す必要がある。さらに奏者が満足する演奏の質を取り戻し、再発予防の不安がなくなるまでサポートすることが求められる。本演題はピアノ奏者に多い母指CM関節症に焦点をおき、母指CM関節外転骨切り術後のピアノ奏者の一症例をとともに報告する。
【症例提示】症例は40代女性、ピアノ講師。半年前より誘因なくピアノ演奏時の右母指痛が出現し、疼痛増悪したため当院を受診し、右母指CM関節症の診断を受けた。病期はEaton分類でstageIIであった。保存加療を実施したが奏功せず、CM関節外転骨切り術を施行した。主訴はピアノ演奏時の母指の痛みであり、術後4か月と8か月のコンサートで演奏をすることが目標であった。ピアノ演奏に必要な機能は、母指の動きとしてオクターブや和音を弾くための「外転動作」、鍵盤から他4指と独立させ親指だけを持ち上げる「伸展動作」、指くぐりの「対立動作」の3動作であり、この3動作に着目して作業療法を実施した。術後4か月の演奏会では母指外転動作と打鍵する動作に対して着目し、母指橈側外転60°、母指掌側外転40°まで改善した。また、同時に対立動作も母指先端が小指MP関節部に触知できるまで回復したが、母指掌側内転での代償動作が残存していた。演奏は問題がない状態まで改善は認めたが、指くぐり動作の不全は残存していた。術後8か月のコンサートは、対立動作の筋力強化やMP関節可動域改善を進めた結果、手指関節の巧緻動作を獲得して問題なく演奏を遂行できた。
【まとめ】本症例はピアノ演奏に必要な手指機能を明確にしてアプローチしたことで、演奏復帰を果たすことができた。しかしながら、ピアノ奏者の母指の障害のみならず、上肢障害に対してさえ治療エビデンスがないのが現状である。今後は演奏家を対象とした上肢障害についての検討を実施していきたい。
I don't have COI relationships whitch should be disclosed.