Chair)
真彦 菅野
(習志野第一病院 整形外科)
【はじめに】排泄障害をきたした外傷性仙尾関節脱臼(以下、尾骨脱臼)の1例を経験し、その排泄障害の機序について検討したので報告する。【倫理的配慮】発表の主旨を説明し、同意を得ている。【症例紹介】58歳、男性。1m高から飛び降り鉄の棒に殿部をぶつけて受傷。前医で尾骨脱臼と診断され、当院を紹介された。初診時、歩行と坐位は可能で、尾骨部痛と排泄障害を認めた。トイレで排便はできず、排尿にはかなりの時間を要した。入浴時は排便が促され、浴槽内で排泄していた。単純X線、CTで仙尾関節の前方脱臼、MRIで脱臼部周囲の出血と浮腫像を認め、外傷性尾骨脱臼と診断した。受傷9日目に全身麻酔で手術を施行した。【経過】手術翌日より立位と歩行を許可、坐位はトイレ時のみ許可した。理学療法で骨盤底筋群の強化を図り、術後4日目に排泄機能は正常化した。術後2週で円座使用での坐位を許可、術後4週で抜釘し、坐位制限を解除した。術後半年の単純X線で、仙尾関節のアライメントは良好であった。【考察】尾骨に付着する尾骨筋、肛門挙筋は、深会陰横筋、尿道括約筋とともに骨盤底筋群を構成する。骨盤底筋群は横隔膜、多裂筋群、腹横筋とともに腹圧を維持するのに欠かせない。骨盤底筋群は、排泄時以外は常に緊張状態を維持して骨盤内臓器を支持し、排泄時の腹圧上昇に寄与する。排便時は弛緩することで、直腸肛門角が鈍角化し排泄を助ける。陰部神経はS234仙神経から成り、梨状筋と尾骨筋の間隙を通って会陰に至る。尾骨脱臼による筋靭帯停止部不安定性と陰部神経障害から腹圧調整、括約不全をきたしたと思われる。入浴中は水圧による腹圧上昇と骨盤内臓器の支持性向上、温熱による疼痛軽減と筋緊張緩和により排泄が円滑になったと考えた。手術治療によって、アライメントの整合性と筋靭帯停止部の安定性を獲得し、運動療法による骨盤底筋群の機能改善で、排泄機能は速やかに回復した。
I don't have COI relationships whitch should be disclosed.